秋の夜長の鑑賞会 (成謙工房さん)

10月26日(土曜日)

 朝晩肌寒くなり、日中も過ごしやすい日々になりました。 ここ最近は、次々に来る台風、それに伴う大雨で、各地で災害が起きています・・・被害にあわれた方々には、お見舞い申し上げます。 こんなに科学が進歩しているはずなのに、祈ることしか出来ない状態に、キリキリしてしまいますよね。 昨年は彩匠のある倉敷でも水害の甚大な被害が出ました。 皆様の温かい支援にどれだけ助けていただいた事か。今の自分に出来る事・・・いつも頭の片隅にありますね。 そして、被害を受けた立場だからこそ解る事も。「ニュースで取り上げられるところ以外にも、同じように、ひょっとしたらもっと大変な場所が想像をはるかに超えてある。そして、知られていないから、支援の手がなかなか届かない。」という事。どうしたらいいのか、思いだけが膨らみます。命を守る事が最優先。でもその後があんまり辛いのは・・・支援が行き届く事を祈ります。

 さて、彩匠ではさる10月6日の日曜日に、恒例の「秋の夜長の鑑賞会」を開催しました。 今年は染めの工房「(有)成謙工房謙蔵」さんに御協力頂いての開催になりました。彩匠では皆が非常に染め物が好きです。織り物より、染め物が好きなのは、皆が日常沢山着物を着るからだと思います。織り物に比べ自由に柄を描ける染め物は、お洒落なものが多いですから、うなずける話ではあります。学院を立ち上げた時から、一軒の染屋さんとお付き合いをしてきた彩匠ですが、昨年の成謙さんとの出逢いで、彩匠の染めの分野の幅と奥行きがグーンと広がったのはとっても嬉しい事でした。 なので、今回はその成謙さんにお願いして、会を開催させていただきました。 

 そして、今回の会ではあえて「洒落物」ではなく「礼装物」だけを見てもらう事にしました。 前述で述べたように、自由に柄が描けるからこそ「洒落物」として重宝する染め物。そして、「礼装物」の着物は今の時代1枚あれば十分。と思う方も多いんですが・・・ あえて「礼装物」だけを用意していただいた訳は!

 自由に柄を描ける物の、それは洒落物の話。 礼装物には、描く柄の位置も決まっていれば、柄自体も「格」のあるものでなければいけません。洒落物よりも沢山の「制限」があるのです。 元々礼装物をメインに物作りをされていた成謙さんの礼装物は、ちゃんと品格がありつつも、モダンだったり、女性なら誰しも「うわー」と声をあげてしまうほど可愛いかったり、かっこよかったり・・・そう「着てみたい!!」と思う物に出会えます。 礼装物は有るけど・・・今まで思った事はないのに、成謙さんの着物は「着たい!欲しい!」と感じさせる、まさに「感性に響いてくる」作品達です。

見たいですよね(笑)では、写真をどうぞ!

色の薄い物は、写真の写りが悪くて見にくいですよね・・・ごめんなさい。成謙さんは職人さんを抱え、育てながらモノ作りをされている会社です。 彩匠のお取引先はこのスタンスの会社が多くなってきました。多分、より多くのリスクを抱えて懸命にモノ作りをしているところの作品はやっぱり「違う」という事なんだと思います。 でも、成謙さんの他と違うところは・・・「ザ・古典の作品も、超モダンな作品も、繊細で可憐な作品も、超大胆な作品も、社長一人の頭の中から生まれる。」という事です。 何回見ても一人の人の頭の中でこんなに多種多様な作品のアイデアが発想出来るという事は、私の想像の範疇を超えていて、驚きしか出てこない。 そして、その社長さんのアイデア、イメージを現実の作品に形として落としこめる職人さんの凄い事! このアイデアに必要な技術を持った職人さんはAさんだからこの仕事はAさんに。 この作品に必要なのはこの技術だからこの仕事はBさんに。と沢山いる職人さんの得意とする技術を把握していて、ベストな方に仕事を任す。 どんな高いコミュニケーション能力なんだろう!!とそこにも驚かされます。だからこそこれだけの作品が生み出されてくる。 

当日の会場には、予定している開場時間を待たず生徒さん達がやってきます。そりゃ皆この日をどんなに楽しみにしていた事か(笑)

皆それぞれ自由に作品を楽しんでいますね。 担当者を捕まえて話を聞いている人も! ちゃっかりお気に入りの作品の前で記念撮影をしてる人もいます(笑) 17時からの説明の前に一点一点チェックしてますね。「すごーい!」「これが一人の人の頭の中で生まれるなんて、信じられない!」「綺麗!!!」「どんな人が着たら似合うのかなあ・・・」様々な声が飛び交っていますが、中には「先生凄過ぎて、言葉が出ません」といわれる方も。 そうだよね~。「ほーっ」と感嘆詞が出るのが精いっぱい。私は最初そうでした。 そしてそれを着こなす人を、久しぶりに「凄ーく羨ましい」気持ちで見てました。 正直いうと・・・ちょっと「口惜しい」気持ちにもなるんです。まあ女ですから・・・お許しあれ(笑)

17時からは担当者によるお話を聞かせていただきました。 成謙がどんな会社なのか、どんな経緯を経て今の姿になったのか、今の物づくりの方法や、職人さんの様子など、まさにどんな「信念」を持ってモノづくりをしているのかが、よーく解るお話でしたね。

そして、何より驚かされたのが・・・皆が覗き込んでいる用紙には「柄の説明」が書かれています。 担当者(販売担当)が、「着物の柄について自身が勉強しているので、良ければ役に立てて下さい。」と持ってきて下さいました。 各種技法や織りの組織など詳しい方には出会いますが、柄の勉強をしている担当者は初めてです。 本当はとってもとっても大事な事だと思うんです。 彩匠の特に「着付け師」には必須項目にしていますが、なかなかそれを学んでいるメーカーの方はいらっしゃいません!! そうか、これこそがまさに「成謙さん」なんだ。と思いました。 少数精鋭の成謙さんは、一人一人物凄く忙しい・・・でも一人一人がとっても前向きで、熱心。真剣にモノ作りに向き合っている・・・販売の立場の人間でさえ、誰から強要されるわけでもなく、自分から時間を作って学んでいる。

「忙しい人には時間があるが、暇な人には時間が無い」そんな言葉を思い出しました。 

そして、「彩匠さんなら、この知識をいかしてくれると思ったので、持ってきました。」と言っていただけた事に本当に、感謝と気が引きしまる思いがしました。 その期待を裏切らない様に、頑張らなければ!

次に見せていただいた写真には、皆が「お~!!」と思わず近づいてきましたね。 「ハズキルーペ」の宣伝で女優さんが着ている着物。「黒革の手帳」のドラマで女優さんが着ていた着物。紅白歌合戦のエンディングで歌手が身に着けていた着物などなど・・・「かっこいい!」と美惚れた覚えのある着物たち、実は成謙さんの作品だったのです。 そりゃあ食いつきますね(笑)

始まる時にはちょっと控えめに、距離をあけて座っていましたが・・・皆の身の乗り出し方、凄いですね(笑) まあ、うちの皆の可愛いところです!

で、そろそろもう一つの楽しみ、お食事の時間です。

勝手知ったるなんとやら・・・で、展示会場はあっと言う間に食事会場に早変わりです。皆が当たり前に協力して、さっさとテーブル、座布団が運ばれてきて、「先生布巾~」「ここにあるよ~」で拭いてくれた場所から、届けられているお弁当が並べられていきます。 「今年はどんなお弁当かな~!!」とワクワクしながらね。 で、あった言う間に「いただきます!」 最初はお弁当を開けた感想が飛び交いますが、ちょっとすると静かになる(笑) この会が始まった時にお願いした「さくら弁当」さん。最初は「味とボリュームは任せて下さい。ただ綺麗なお弁当と言われると・・・難しいんです。」と言われていましたが、最近は、味もボリュームも、彩りも本当に満点のお弁当を届けていただきます。 値段は変わってないのに! だから、すっかりこの会のお楽しみの一つになっています。 このお弁当だって、職人技です! ホント今年も大満足でした。 

担当者は、皆へのお話の大役を終えて、美味しいお弁当をいただいて、少しはゆっくり、ほっこりしたかったと思いますが・・・ 

そう、彩匠の皆はここからが最大の楽しみです。 だから食べ終わったら、お尻がうづうづしてきちゃいますよね~。見ていて解ります。だから、「御馳走様でした」と言うが早いか、用意した時よりも早いスピードで片付けが始まり、あっと言う間に元どうり。で、彩匠の本領発揮です! 皆様の美しい姿、何より真剣で有りつつ、楽しそうなお顔をご覧あれ!

今回は、「嫁入りを控えているので、似合う物を探す」という方や、「礼装物が欲しいけど、凄く背が低いので、柄の位置を考えないといけない方」など、数名この会で、着物を着てチェックしたい方もおられました。が、まあ着付け師もいますから(笑) 皆写真に無くても、気になった物は羽織ってましたね。

驚いたのが、飾ってあると「こんなすごい着物誰が着るの?」とか、「こんな凄い柄、どんな帯が乗るの?」なんて思っていた着物が、いざ身につけてみると・・・「あれッ!いける?」「あら、似合うよ」「見てるのと着てみるのと全然違う」「凄い綺麗!!!」となる事でした。 

まさに、「引き算」が成立している作品達だったんです! 「着物だけで完成しない。帯や小物が乗る隙間がある事」そして何より、「来ている人が目立つ。美しく目立つ。主役は着物ではなく来ている人。」まさにそういう作品達でした。 解り易いのが、最後の写真の振袖。本金をこれでもか!と使って有りますし、柄も迫力があり、色数も多い、本当に飾っても映える振袖ですが・・・着てしまうと華やかさも豪華さもあるのに、何とも控えめ。決してお顔が沈みません。そして、意外と帯合わせが楽!

皆が凄い!!!と叫んでいましたが、その皆に圧倒された担当者は、陳列出来ずに、泣く泣く奥にしまってあった着物も出してきちゃいました(笑) 「え~っ!どこにあったの!!!」はい、ちゃんと皆袖を通してましたね。

今年も驚きと感動と、そして沢山学ぶことのあった、秋の夜長の鑑賞会。成謙さんの御協力は元より、沢山の方々の協力があって開催出来ました。成謙さん、さくら弁当さん、蔭山先生、そして生徒さん達皆が助けて下さるから、毎年開催できています。 本当にありがとうございました。 

そして、会場である「新渓園」さんにも感謝です。 管理人さんや、お掃除の方も「楽しみにしてたのよ」と暖かい声をかけて下さったり、備品を快くお貸しいただいたり、お庭のライトアップもして下さいます。本当は当たり前じゃないんですよね・・・今年は、荷物運びまでお手伝いして下さって・・・本当にありがとう御ざいました。また、来年もお世話になります!

皆の暖かい思いに触れる事が出来るから・・・来年も頑張ります!